あおり運転を行った者に対する傷害事件
◆ 事件の内容
(1)相談者は,いつも同じ道を通って,車で仕事場に出勤していました。
以前,相談者は,後ろから来た車に煽られ,後方の車は反対車線に出て相談者の車を追い越したうえ,急ブレーキを踏むというような運転をしたため,もう少しで追突しかねない状態になりました。
この時はそのまま見過ごしましたが,本件事件当日,再び,同一の車両が相談者の車両を後ろから煽り,反対車線に出て並列し,相談者を怒鳴ると言うような行為をしたため,相談者も腹が立ち,近くの広場へ相手方の車両を誘導するようにして停車しました。
相手方の車両も,相談者の車両についていき,広場に停車しました。
相談者は車から降り,相手方が車から出ようとしたところを引っ張り出し,「おまえ,この前も煽っただろ。いい加減にしろ」と怒鳴り,相手方の襟首を掴み,締め上げました。
すると,相手方は,どこかに電話をかけ,電話に人が出たところ,代わるように指示してきました。
相談者が電話に出ると,電話口の男性から「親父だけど,組の事務所の方に来い」「来ないならこっちから行くから」と怒鳴られました。
相談者は,相談者に対して煽り運転をしていた相手の父親が,暴力団員であったことから,これ以上,関わるとまずいと思い,その場から逃げました。
(2)ところが,一方で,相手方は,直ちに病院を受診し,「診断書」を取得し,「頚椎捻挫及び打撲 全治2週間」ということで,警察署に「被害届」を出しました。
その後,相談者は警察に呼ばれ,調書を取られました。
さらに,1ヶ月後には,相談者は,警察官と同行のうえ,現場の写真等も取られ,近いうちに検察庁の方に送ると言われました。
そのため,どうしたらよいかという相談でした。
◆ 事件の解決
(1)相談者に同情すべき点が多々ありましたが,実際,煽ってきた相手に対して暴行を加えたため,頚椎捻挫等の「診断書」が取られ,警察に「被害届」が出され,傷害事件の被疑者となっている以上,適確に対応しないと,このような状況では,公判請求されないまでも,「略式罰金」となり,「前科」がついてしまうことになることから,とりあえず,相手方と示談する必要がありました。
(2)そのため,私は担当の警察官に連絡を取り,このような場合,通例となっている
「弁護士限り」ということで,相手方の連絡先を教えてもらうか,
あるいは,
相手方から弁護士である私の方へ連絡をしてもらうか
を依頼しました。
(3)その結果,相手方から私宛に連絡があり,交渉の結果,「治療費及び慰謝料として20万円を支払う」ということで,相手方に納得してもらい(怖い父親の了解も得ました),次のような「示談書」を作成しました。
第1条 乙は,甲に対し,平成29年○月○日,甲に対し行った傷害行為につき,衷心より謝罪する。
第2条 乙及び甲,並びにそれぞれの関係者は,互いに相手方に対し,今後一切の加害行為、脅迫行為等及び嫌がらせ等の行為を行わないことを誓約する。
第3条 乙は,第1条記載の事件に伴う甲に対する治療費及び慰謝料等として金20万円の支払義務があることを認め,本日,乙は甲に対しこれを支払い,甲はこれを受領した。
第4条 前1条の謝罪及び第3条の賠償金の支払いを受け,甲は,乙の甲に対する傷害行為について宥恕し、乙の処罰を希望しない。
第5条 前各条項に定めるほか,甲と乙との間に一切の債権債務がないことを相互に確認する。
(4)この間の経緯を記載した書面と,「示談書」及び治療費及び慰謝料等20万円についての「領収書」を担当刑事に送付した結果,相談者は「起訴猶予」となりました。
◆ 弁護士のコメント
最近,悪質な「あおり運転」が横行しているようですが,これに立ち向かっていった相談者の行動には驚きましたが,少々やり過ぎてしまいました。
このような場合,逆に殺傷沙汰になる可能性もあり,二度と無謀なことはしないように,私からも相談者に強く注意しました。
あおり運転をされても,冷静になり,道を譲るなりして,相手にしないようにして下さい。
それでも悪質な場合には,110番通報するしかないでしょう。
車載カメラの搭載は絶対的に必要です。
カメラがないと証拠がないので,警察としては,いかに訴えても取り上げてもらえない可能性があります。
最近,あおり運転の危険性が周知され,あおり運転が明らかになれば,一発で最長180日の免許停止になりました。