有責配偶者からの離婚申立(2)

◆ 事件内容

依頼人(女性)は,ある日突然,単身赴任中の夫から,弁護士を介して,内容証明郵便で,離婚の申し出を受けました。

届いた書面には,「離婚に応じなければ,法的手続をとる」というような,一方的な記載がなされていました。

依頼人と夫(相手方)は,27年程前に婚姻し,二人の間には,成人した子どもが2名おりました(但し,依頼人と同居しています。)。

依頼人の夫は,日本でも有名な企業の,東南アジアの系列の子会社において,社長として就任しておりました。

夫(相手方)の言い分としては,

「既に10年以上別居しており,東南アジアに赴任する際,交際していた女性とともに行き,現地で夫婦同様の生活をしている」

とのことでした。

 

◆ 解決内容

依頼人(妻)は,夫(相手方)について,国内で働いていた頃も出張が多い生活であり,現在は海外で,自分(妻)や子どもたちのために,一生懸命働いてくれているのだと信じ切っておりました。

夫が浮気したり,不倫相手の女性と交際・生活している等とは,全く考えていませんでした。

したがって,突然,夫の代理人弁護士から内容証明郵便が届き,依頼人も子ども達も,茫然自失という状況で,最初は,現実を受け入れることがなかなかできませんでした。

 

離婚調停は,1年3ヶ月にわたり,合計10回開催されました。

最初の1年間は,依頼人(妻)は,事実は理解したものの,心の整理が全くつきませんでした。

1年が過ぎ,私は依頼人に対し,

・ このまま調停を続けていても,夫が依頼人のもとに帰ってくることは,絶対に有り得ないこと

・ 今後,一定の期間をおいて,夫から裁判(離婚訴訟)を起こしてくることは間違いないと思われること

・ そして,その時の条件は,今より良くない条件となってしまうであろうこと

等をお話しました。

依頼人は,非常に悩みながらも,夫から相当額の資産を分けさせる前提で,離婚の方向で話を進めていくと結論を出しました。

しかし,結局,こちらが提案した金額が過大であるということで,離婚調停は不成立となりました。

 

離婚調停が不調になった3ヶ月後,夫(相手方)は,新たに離婚訴訟を提起してきました。

当方としては,夫(相手方)は「有責配偶者」であるため,しばらくは裁判を起こしてこないのではないかと考えていました。

しかし,夫(相手方)としては,自分が「有責配偶者」であり,このような短期間で提訴しても,最終的には,離婚が認められないと理解しながらも,一定の条件を出すことにより,早期に離婚したいという結論に至ったのだと思われます。

その結果,裁判所で,和解の話し合いが数回行われ,結局,次のとおりの和解が成立しました。

① 夫は妻に対し,慰謝料として,2400万円を支払う。

② 財産分与として,妻及び子ども達が居住しているマンションを妻に分与する。

③ 夫は妻に対し,企業年金の支払時期がきた時点で,内約600万円を支払う。

④ 年金分割割合 0.5

 

 

◆ 弁護士のコメント

この件では,依頼人(妻)は,夫(相手方)を全面的に信頼しており,突然,夫の代理人弁護士から,一方的に「離婚」を通告されたことで,精神的に極めて大きな打撃を受けてしまいました。

子ども達も,父親が母親に対して離婚を通告してくるというようなことは,夢にも思っておらず,大変なショックを受け,母親を苦しめる父親を許せないという強い気持ちを持っていました。

したがって,最初の1年間は,離婚についての話を進めるというよりも,依頼人やお子さん達から,いかにショックを受けたかというようなお話をお聞きしていました。

そして,どのような対応をとるにしろ,まず,現実を受け止めるためのお話をさせて戴いておりました。

相手方代理人は,夫からしか話を聞いていないため,「妻は夫に対して愛情もなく,夫に他に女性関係があることも,うすうす知っていたのではないか」というように思っているようでした。

しかし,何度も依頼人(妻)に会って話をしていると,

夫は仕事で留守がちではあったものの,妻が夫を愛していたこと

妻は夫について,子ども達にとっても,尊敬できる父親であると思っていたこと

それが一挙に奈落の底に落とされた思いであること

等が,私にはひしひしと伝わってきました。

依頼人(妻)は,1年を経過した時点においても,「直接夫と話せば,夫が翻意して,帰ってきてくれるのではないか」という,かすかな思いを持っていたほどです。

私は,同じ男性として,夫の身勝手をつくづく感じざるを得ず,自分は絶対に,妻にこのような悲しい思いはさせないと心の中で誓いました。