有責配偶者からの離婚申立(1)

◆ 事件内容

依頼人(男性)は,平成10年に妻と結婚し,二人の間には中学3年生と中学1年生の娘がおりました。

依頼人は,結婚後16年間,妻と共同生活(同居)をしておりました。

また,依頼人は,特殊な技術を有し,相当高額な収入を得ておりました。

しかし,昨年,依頼人の不倫(浮気)が発覚しました。

依頼人は妻に対し,約7年間に渡り,不倫相手の女性と交際していたことを,正直に白状しました。

当然のことですが,夫の不倫を知った妻は,その後,連日のように夫(依頼人)を責め,婚姻生活は事実上破綻してしまいました。

そのため,依頼人から妻に対し,離婚調停を申し立てた,という事件でした。

 

◆ 解決内容

離婚調停の申立を行ったのは,平成26年12月でしたが,最終的に,調停離婚が成立したのは,平成28年1月でした。

約14ヶ月かかったことになります。

このような,有責の夫からの妻に対する離婚の申立の場合,妻の側では,夫に対して未だ強い気持ちを持っており,

また,子どもがいる場合には,「子どものことも考えると離婚には一切応じられない」という対応になるケースが多いと思います。

しかし,調停の回数を重ね,申立人である依頼人(男性)の気持ちが極めて強いことを知り,また,

金銭的には,通常の慰謝料や財産分与以上のものを提供すること,

子どもに対しては,相当額の養育費を支払うこと

を条件とし,気長に説得することにより,相手方(妻)の弁護士ともども,

「このまま争い続けても,必ずしも家庭は元に戻らず,中途半端な状況で長引かせるよりは,相当の金銭を支払ってもらって解決しよう」

という気持ちになってくる場合もあります。

本件においても,依頼人は,ある程度,金銭的に余裕があったことから,次のような条件で調停が成立しました。

① 二人の子どもに対しては,それぞれ22歳になるまで,1人につき,月額17万5000円を支払う。

② 妻と娘が住んでいるマンションを約3370万円と評価して,分与する。

③ 慰謝料として,金1100万円を支払う。

通常の離婚では,妻が提訴した場合,最高でも,慰謝料は500万円程度になるのが相場です。

収入が多いとはいえ,養育費としても,ここまで高額になるということは,通常はありません。

依頼人は,自分が社会的に危機的状況に置かれた際,何の力添えもしてくれなかった妻ではなく,心の支えとなってくれた不倫相手の女性を選びました。

現在は,その方と幸せな生活を送っています。

 

◆ 弁護士のコメント

有責配偶者の夫が離婚を求めた場合,妻が離婚に応じようとしないのは,当然のことと思います。

調停において相手方が離婚に応じてくれない場合,有責配偶者が裁判を起こしても,5年程度は間をあけないと,たとえ家庭が破綻していても,裁判所は,なかなか離婚を認めてくれません。

しかも,未成年者の子どもがいないこと,さらには,この間,婚姻費用をきちんと払うなど,誠実な態度をとっていたことも条件となります。

そのため,有責配偶者からの離婚申立は,困難な面があります。

しかし,妻に対し,通常の離婚よりは高額な金額を支払わなければならないことを覚悟したうえで(妻を裏切ったのですから,弁護士としても当然のことと思います。),ねばり強く調停や裁判を行えば,私の経験では,なんとか離婚を成立させることはできると思っています。

相手方の気持ちが変化する要因として,一番大きいのは,

当初は,「夫が自分のもとに帰ってくるのではないか」という思いがあるものの,

調停が長引く中で,「そのようなことは絶対に有り得ない」ということが徐々にわかってくることです。

また,調停が不調になり,5年程度経過した後に,裁判(離婚訴訟)を起こされれば,その時は,

「すでに夫婦関係は長期間破綻している」として,男性の有責性があまり問題にされず,

金額も,調停時より減額されたものしかもらえないことや,

さらには,調停を不調にしても,その後,夫は帰らず,婚姻費用は払ってもらえるにしても,

「戸籍上は妻であるものの,実態はない」という中途半端な歳月が流れ,新たな出発もできないこと等を考え始めると,

「ある程度の条件を出してもらえば,離婚しても良い」という考えに変わることもあります。

こんなことを勧めるのもなんですが,有責配偶者だとしても,妻との婚姻を続けることが,どうしてもできないと思うのであれば,それなりの覚悟をして,離婚調停の申立をしてもよいと思います。