白蟻駆除トラブル


◆ 事件の内容

(1)相談者は,千葉市内の戸建に1人でお住まいの女性です。

4月,シロアリの季節になることもあり,自宅にシロアリがいるかの調査をしてもらい,いれば駆除を依頼しようと考え,インターネットで調べて,「無料調査」をしてくれるという業者Yに調査を依頼しました。

(2)3日後,Yの従業員2名が自宅を訪れ,調査の結果,「床下に白蟻の被害と思われる箇所があります」「できるだけ早く防除しないと,今年も羽アリの発生はあるでしょう」と言われ,さらに,「明日,上司が見積書を持って来ます。」と言われました。

専門業者から「今年も羽アリの発生はあるでしょう」と言われ,不安になった相談者は特に異論は挟みませんでした。

翌日,別のYの従業員が,「白蟻調査の結果」と2種類の「御見積書」を持って来ました。

見積書Aは54万円,見積書Bは114万円でした。

見積書Bは,特殊なシロアリ防除工事を行うもので,再発保証期間が10年間でした。

Yの従業員から盛んにBの工事を勧められ,はっきり断ることのできないまま,工事日が7日後に決められました。

なお,見積書は誤った床面積による見積であったため,工事当日までに正しい見積書を渡して欲しいと相談者は要求し,担当者も了解しました。

(3)工事当日,見積書の訂正のないまま,シロアリ防除工事が始まり,半分程度の工事が行われ,残りの工事は1週間後と言われました。

(4)この間,見積書の訂正もなく,正式な契約書も作成されないことに不信感を持った相談者は,残りの工事の予定日,弟に立ち会ってもらい,弟からA工事に変更して欲しいと要求してもらったところ,材料が異なるということで,Yの従業員はその日の工事はせずに帰りました。

(5)2週間程経過し,業者Yから初めて「通常工事の見積書」,「申込書及び申込内容確認書」が送られて来て,署名押印をして返送してほしいとの依頼がありました。

なお,申込書には,「本書面を受領した日を含む8日間は申込みの撤回又は解除を行うことができる。」という「クーリング・オフ」の記載がありました。

(6)これを見た相談者は,特定商取引法9条に基づき,Yとのシロアリ防除契約を解除するとの内容証明郵便をYに送りました。

(7)ところが,その後も,Yから,この工事はクーリング・オフが成立しないので,実施した工事代金分として25万円を支払えと請求が来ました。

相談者は,消費者センターに行き,クーリング・オフの対象になると聞き,そのうえで,私を紹介され,県民合同法律会計事務所を訪ねて来ました。

相談の結果,相談者はご自分で,この工事は合意しておらず,契約自体成立していない。仮に契約が成立していたとしても,クーリング・オフをしているので代金は支払わないとの書面をYに送りました。

これに対し,Yは裁判を起こしてきました。

 

◆ 事件の解決

(1)Yの請求は,
① 最初の訪問時に契約が成立し,その後工事に着工した。
② その後,工事Aから工事Bに変更された。
③ 相談者が請負契約を解除したため,工事の続行が不可能になった。
④ Yは相談者に対し,出来高(8割)に相当する債権を有している。
というものでした。

(2)このような請求に対し,当方は,
① 本件は消費者契約であり,特定商取引法4条,5条により,契約に際しては法定の書面の交付がないうえ,契約書の作成もなく,唯一交付された見積書も誤ったままであることから,契約自体成立していない。
② 相談者は,白蟻被害の有無の調査を依頼したものであるから,特定商取引法26条6項1号の適用除外規定には該当せず,同法9条のクーリング・オフが適用される。
③ 仮に契約が成立したとしても,クーリング・オフにより解除されている。
と主張しました。

(3)簡易裁判所(第一審)の判決は,
① 特定商取引法26条6項1号の適用除外規定には該当せず,同法9条が適用される。
② そもそも請負契約が締結されたと認めることは出来ない。
③ 従って,クーリング・オフの有効性を判断するまでもなく,Yの請求は認められない。
要するに,第一審は,契約が不成立であるから,Yの請求は認められないという判決でした。

この判決に対し,Yは控訴しました。

Yの控訴は,請負契約が成立していないのであれば,それにもかかわらずYは,一定の作業を行い,損失を受け,その反面,相談者はその作業により利益を受けているから,不当利得返還請求を行うというものでした。

(4)地方裁判所(第二審)の判決は,
① 請負契約は成立している。
② 特定商取引法26条6項1号の適用除外規定には該当せず,同法9条が適用される。
③ クーリング・オフが有効になされている。
④ 従って,Yは相談者に請求できない。
という内容でした。

(5)第一審では請負契約の成立を認めなかったのに対し,第二審では請負契約の成立を認めたうえでクーリング・オフの適用を認め,結局,結論としては相談者が勝訴しました。

 

◆ 弁護士のコメント

(1)正直,少額事件であり,したがって,弁護士としても,低額の着手金で受任せざるを得ませんでした。

事件は,東京簡易裁判所において,平成29年12月から始まり,4回の弁論と証人尋問を経て,平成30年10月に判決となりました。

(2)正直,千葉の弁護士である私が,東京簡易裁判所に毎回出向くのは,経済的には負担でしたが,消費生活センターから紹介された事件であり,シロアリ防除会社であるYの対応も極めて悪く,なんとか消費者である相談者を助けたいという気持ちで頑張りました。

(3)一審勝訴で終わると思ったところ,相手方のYが控訴したため,東京地方裁判所で控訴審の審理が4回行われ,令和元年6月3日に判決となりました。

(4)相手方のYは,経済的な余裕もあり,会社の信用?の問題もあるため,控訴してまで頑張っていましたが,消費者である相談者や弁護士にとっては,負担となる訴訟でした。

幸い,相談者の女性がしっかりした方で,不当な請求には応じたくないという強い信念を持っていたため,最後まで頑張り,大変喜んで頂き,感謝されました。

しかし,同時に,気の弱い方であれば,納得出来ないにしても,会社から裁判を起こすというような書面が送られてくれば,その時点で泣く泣く支払いをしてしまうのではないかとも思われる事件で,弁護士としても色々考えさせられる事件でした。

相談者の笑顔が報酬の事件でした。