未払賃金請求事件3


◆  事件の内容

(1)千葉市内にお住まいの相談者は,過去の経験を評価されて,市原市内のY社に課長待遇で採用されました。

しかし,残業が多く,また,会社代表者との間に軋轢が生じたため,退職に追い込まれました。

(2)相談者としては,退職せざるを得なかったことについて争う気持ちはないものの,未払になっている残業代だけは適正に支払って欲しいとの強い希望があり,県民合同法律会計事務所に相談にみえました。

 

◆ 事件の解決

(1)このような場合,労働審判の手続をとることで早期解決を図ることが出来ることを,まず相談者にご説明しました。相談者にご納得いただけたことから,弁護士として受任し,労働審判の手続をとることになりました。

(2)私はいつもそのようにしていますが,相談者から労働実態を詳細に聴取し,この間の経緯をまとめた報告書又は陳述書を作成します。

(3)残業代の未払については,当方で証明しなければならないため,どうしてもタイムカードを入手する必要があります。

そのため,裁判所に「証すべき事実」「保全の事由」「保全の必要性」を記載した文書を提出し,タイムカード等の検証を求める証拠保全の申立を行います。

通常裁判所は,代理人弁護士と面接をしたうえで,理由がはっきりしていれば,この申出を認めてくれます。

その後,日程を決められ,裁判官とともに,タイムカードが置いてある事業所に出向きます。

なお,この30分程前に,裁判所職員が相手の会社の本社に命令書を届けるようになっているようです。

(4)裁判官が一緒に行ってくれますので,ほとんどの場合,相手方はタイムカード等の開示に協力してくれます。

弁護士は,このタイムカード等を1枚1枚写真撮影するなどして,証拠として保全します。

勿論,相手方がコピーの使用等に協力してくれれば,コピー代を支払ってコピーをとることも出来ますが,協力義務はないため,カメラ等の準備が必要です。

(5)残業時間の証拠は,タイムカードだけではなく,業務報告書やパソコン内の保存時間のデータ等も証拠になります。

これらの資料を前提に未払の残業代の一覧表を作成して,この支払を求める労働審判を裁判所に申し立てます。

本件は,千葉地方裁判所に申し立てました。

その後,労働審判法に基づき審理が開かれ(原則3回以内),その中で,話合いが成立すれば調停成立となり,話合いが成立しなければ労働審判となります。

ただし,労働審判に対しては,2週間以内に異議申立てをすることができるので,異議を申し立てた後は,裁判になります。

(6)本件においては,3回目の審理で,当方が計算した未払残業代の7割程度の支払での調停が成立しました。

 

◆ 弁護士のコメント

(1)私のこれまでの経験から,残業代の未払は,労働審判の手続をとることが,早期に効果的な解決が出来ると考えます。
事件の内容や会社によっては,労働審判を申し立てただけで,ほぼ全額が支払われたこともありました。

ただし,徹底的に争われ,裁判で決着せざるを得ない場合もあります。徹底的に争うことが会社側に有利な事情があるわけではなく,どうしても古い体質から抜け出せない経営者が,徹底的に争った結果,傷口を広げることになるのではないかと思います。

(2)証拠保全は,2度目を行うことができませんので,写真撮影は失敗することのないよう,事前に至近距離でのカメラテスト等を行って,十分な準備をして臨むようにして下さい。

私は,必ず2台のカメラを持参して撮影に臨みます。勿論,カメラマンも2人必要です(ただし,本職のカメラマンではなく,私と県民合同法律会計事務所所属の弁護士や事務員ですが)。

実際に写真を撮ってみると,一方の写りが悪くて証拠として使えなかったことがありましたので,十分ご注意下さい。

(3)私は,未払残業代については,経営者の側からも相談や依頼を受けることがありますが,この場合は,社会保険労務士とともに,相手方である労働者の主張を十分吟味したうえで,それが適正なものであれば,適正な支払を指導すると同時に,今後の対策等についての指導を行っております。