実質的に算定表より多い養育費をの支払いを受ける方法

◆ 事例の内容

御相談者は,30代の女性。10年前に夫と結婚し,6歳になる女の子を授かりました。

2年前に夫が会社の同僚と浮気をし,夫が自宅から出て別居になりました。

別居中も,夫は,御相談者と娘のために,毎月7万円の生活費を支払っていました。

夫は,生活費を自宅まで持参し,御相談者に手渡ししていました。

その際,娘と会い,学校の様子や友達のことなどを話していました。

別居または離婚後に,子の面倒を見ていない親とその子が会い,交流を持つことを,「面会交流」といいます。

離婚すること,母親が「親権者」となること,「面会交流」を一か月に1回程度行うことについて,夫婦に争いはありませんでした。

「財産分与」の対象となる財産はほとんどなく,経済的に厳しいご家庭でした。

争点は,養育費の金額及び浮気をしたことの慰謝料の金額でした。

夫は,「経済的にひっ迫しているので,算定表で算出された金額を超えて養育費を支払うことはできない」と話しているとのことでした。

家庭裁判所において参考にされているいわゆる養育費の算定表(http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf)によれば,離婚後の養育費は,月額4万円から6万円とされていました。

御相談内容は,算定表で算出される養育費の最高額である月額6万円を支払ってもらっても,パートで得た月額約10万円の金銭だけでは,母娘ふたりで生活していくのは難しいため,算定表以上の養育費を支払ってもらうことはできないかとのことでした。

 

◆ 事案の解決

御相談者には,夫に支払ってもらう養育費の金額はともかく,まずは,離婚後に,母子家庭は行政(市区町村,都道府県)からどのような支援を受けることができるか(児童扶養手当等),役場(市役所,村役場等)で確認してくださいと伝えました。

そして,行政の経済的支援を得た上で,算定表を上回る養育費の支払いを受けるにはどうしたらよいかを,以下の通りご説明いたしました。

・ 養育費の額について,当事者間で話合いがつかない場合,最終的には,「審判」という手続で,裁判所が当事者の収入等を考慮して決定する。

・ 裁判所が養育費の額を決定する際,算定表が重視され,算定表で算出された範囲を超えて養育費を支払うよう,裁判所に命じてもらうのは特別の事情がない限り難しい。

・ 本件では,特別の事情は存在しないので,算定表を超えて養育費を支払うよう裁判所に命じてもらうのは,非常に困難だと判断せざるを得ない。

・ もっとも,夫は浮気をして,その夫の浮気が離婚の直接の原因になっているようなので,夫に対しては慰謝料を請求することができる。

・ 夫には,慰謝料を分割で支払ってもらい,その分割金を容養育費と合算して,実質的に養育費を算定表より多く支払ってもらうことはできる。

・ ただ,この方法によった場合,本来,御相談者の精神的苦痛を慰めるために支払われ,御相談者が自由に使うことができる慰謝料を,お子さんのために使うことになる。もし,自由に使いたいというご希望がある場合には,この方法によることはできない。

上記の通りご説明差し上げた後,御相談者は,「慰謝料を子どものために使うことに全く異論はないので,教えていただいた方法で養育費を実質的に多く支払ってもらうようにします」とお話になり,お帰りになりました。

数日後,再度御相談いただき,「自分では夫を説得することができないので,先生に依頼したい」と御依頼いただきました。

その後,私が,夫と協議を重ね,離婚調停を申し立て,協議の場を裁判所に移し,協議開始から約1年半後に,養育費は月額5万円,慰謝料504万円を毎月3万円ずつ14年間(168回)支払ってもらうことで合意いたしました。

養育費は月額5万円ですが,14年間,つまり,お子さんがちょうど20歳になる年まで,毎月3万円の支払いが受けられるようになり,実質的に月額8万円の養育費を支払ってもらえるようになりました。

 

◆ 弁護士のコメント

養育費の金額については,実務上,「算定表」が重要な役割を果たします。

養育費の金額は,第一次的には,当事者が話し合って決めます。

話合いは,まず,当事者が自宅等で行い,とん挫した場合に,養育費支払請求調停において行います。

当事者の話合いで決まらない場合,「審判」という手続において裁判所が決定します。

算定表で算出された金額を超えて養育費を支払うよう,裁判所に命じてもらうことは難しいです。

養育費算定の基礎となる生活水準が低く設定されている等の理由により,算定表により算出された養育費の支払いを受けても,子が自立するために必要な生活を維持できない等の弊害も指摘もされています。

そこで,日本弁護士連合会は,上記弊害を踏まえて新しい算定表を作成し,平成28年11月15日,関係各所に提言しました。

しかし,この新しい算定表が現在の算定表にとってかわることは難しいし,もし,可能であるとしても遠い将来のことになると予想されます。

現時点で離婚をお考えになり,養育費を多く支払ってもらいたいと考えている方々には,別の方法で養育費を多く支払ってもらわなければなりません。

その方法として,養育費以外の名目で金銭を支払ってもらい,それと養育費を合算して,実質的に算定表で算定したより多くの養育費を支払ってもらう方法があります。

養育費以外の名目の金銭の典型例が,離婚慰謝料です。

ただ,この方法による場合,本来自由に使える慰謝料を子どものために使うことになり,ご自分で使うことはできなくなります。

このことをご説明すると,ほとんどの御相談者は,慰謝料を子どものために使いたいとお話くださいます。

御意思を確認させていただいた後,御依頼者と話し合っていきます。

この話合いの過程で,慰謝料名目でお支払いいただくが,実際には子どものために使うこと,養育費だけでは子が自立できるよう養育していくことは非常に難しいことなどをご説明し,御納得いただきます。

話合いには,ノウハウが必要になるところ,当事務所は30年以上の実績に基づき,上記ノウハウが蓄積して実践にいかしております。

算定表により算出された養育費が低額で,お困りの方にはぜひ当事務所に御相談いただきたく思います。