交通事故の件


◆ 事件の内容

当初の相談内容は,

① 依頼人が,夫の運転する普通乗用自動車(被害車両)に同乗して国道を走行中,前方の交差点の信号が赤信号であったため,一旦停止した。

② その後,青信号になったため発進したところ,後続する加害車両(トレーラー)の運転手の前方不注視により追突され,依頼人が傷害を負った。

という内容の比較的単純な交通事故事件でした。

 

◆ 事件の解決

治療費,交通費,休業損害,逸失利益等を算出し,そこから,既に相手方保険会社から補填を受けている費用を差し引き,弁護士費用(通常,損害額の1割程度)を加算して,訴訟を提起しました。

ところが,裁判において,相手方から車両搭載カメラの映像が提出され,そこには赤信号で被害車両と加害車両が並列して停止し,その後,被害車両を運転していた夫が車から出て,加害車両の運転手に抗議をし,更に,被害車両を加害車両の前面を塞ぐように移動させている場面が写っていました。

この映像に基づき,相手方は「過失がない」と主張しました。

当初,依頼人である妻及び夫は,このような経過について何も述べていませんでした。

そのため,提出された映像を依頼人夫婦に見てもらった上で,事情を再聴取しました。

その結果,これ以前に,加害車両であるトレーラーが法定速度を大幅にオーバーしながら,二車線道路を再三車線変更するという無謀な運転を行い,高齢者の標識を付けた車などは逃げるように進路を空けている状況を目撃していたとのことでした。

このようなことから,依頼人の夫は,トレーラーの運転手に注意するため,停止信号で並んで止まった際,車から出て大きな声で注意したものの,周囲の騒音で全く聞こえなかったようでした。

そのため,夫は,再度注意するため被害車両を加害車両の前に移動させました。

しかし,依頼人である妻は,何かあると怖いからやめてと,夫を強く引き留めました。

青信号に変わったため,夫は抗議を諦めて発進しました。

その際,くわえ煙草をしてた煙草の火が落ちたことに驚き,夫が,咄嗟に軽くブレーキを踏んでしまったため,被害車両の速度が落ち,加害車両が追突したというのが事実であることがわかりました。

結局,裁判所は,加害車両の運転手が無謀運転をしていた事実,夫が被害車両を被害車両の前方の移動した事実,発進直後に被害車両の速度が急速に落ちた事実などを総合して,過失割合を5割と考えて和解勧告をし,原被告とも同意し和解が成立しました。

 

◆ 弁護士のコメント

依頼人は,自分に不利益だと思って話さないことや,依頼人自身「重要ではない」と思って話さないことがあります。

しかし,裁判では,そのようなことが「極めて重要な争点」として争われることがあります。

弁護士としては,事件に着手する際に,細かい点について十分聞き取りを行うことが重要であると思い知らされ,反省する事件でした。

しかし,裁判後,明らかに依頼人にとって不利な証拠が出てきたとしても,うろたえたり諦めたりすることなく,「なぜそのような状況に至ったのか」ということを十分聞き取り,調査することで適正な賠償額を勝ち取ることができるとも思いました。