交通事故(被害者側) 1


◆ 事件内容

依頼人は,運転手として中型貨物自動車を運転中,信号機で停車していたところ,後方から大型トレーラーに追突されて重症を負い,病院に約100日間入院し,その後,約110日,通院しています。

さらに,その後,「後遺障害第7級」と認定され,「軽易な労務以外の労務に服することができない」と判断されたため,加害運転手及びその所属する会社(勤務先)に対し,損害賠償を求めた事件です。

 

◆ 解決内容

加害者が契約している保険会社との間で,任意の交渉により解決するという可能性もあります。

しかし,バブル崩壊後,保険会社の支払いは,損害額が大きくなればなるほど,被害者が要求する適正な金額についても出し渋ったり,弁護士に依頼していないような場合には,様々な理由をつけて支払額を減額しようとする傾向があります。

弁護士としては,到底納得できない金額が提示され,合意に至ってしまっている場合も見受けられます。

このようなことから,私は,保険会社が現在のような運用を続けていくのであれば,比較的軽微な受傷以外は,受任した事件について,依頼人の承諾の下,全て訴訟を提起し,適正な金額を支払ってもらうことにしています。

本件においては,任意保険会社から治療費等として約910万円,自賠責保険から後遺障害分として約1050万円の合計1960万円の支払を受けていましたが,次のような請求をしました。

(1)医療費関係

① 治療費

② 看護料

③ 入院雑費

④ 付添人(妻)の交通費と休業損害

(2)通院交通費

(3)休業損害

(4)逸失利益

(5)慰謝料

① 入通院慰謝料

② 後遺症慰謝料

以上のような通常の損害のほか,本件における特別な損害として,次のような損害も請求しました。

① 歯の治療代等

② 子どもの保育延長料金

③ 介護用ベッド代

④ 身障者用運転補助装置

⑤ 後遺症の認定後,自賠責の保険金の支払まで,1年4ヶ月かかっており(通常は,1ヶ月程度で支払われます。),この間の遅延損害金も加算

その結果,請求額は,約4300万円(保険会社から既に受領した金額を除く)となりました。

被害者である依頼人は,幸い,事務職として会社に復帰することができました。

しかし,保険会社は,「事故前の給与より38%減額されただけであるから,被害者の逸失利益を考える場合,後遺障害7級(56%減)を前提に考えるべきではない」と主張しました。

これに対し,当方は,

・ 会社側の特別の配慮

・ 運行管理者の試験に合格して正社員になる予定であったが,正社員になれなかった事実

・ 仕事を継続する上での苦労

・ 配置転換された事実

・ 業務上のハンディキャップをカバーし,業務自体をレベルアップさせる努力

・ 生活上の支障

などについて立証し,賃金の減額は38%程度であるにしても,それは,会社の温情と本人の必死の努力があり,労働能力喪失率を56%以下とするのは妥当でないと主張し,争いました。

その結果,裁判所から,3200万円での和解案が提示され,保険会社からの給付金と合計すれば,5160万円ということになることから,依頼人も納得し,和解することとしました。

 

◆ 弁護士のコメント

弁護士としては,典型的な損害のみを「損害」として考えてしまう傾向があります。

しかし,依頼人の話に誠実に耳を傾けることにより,細かいようですが,

・ 妻が夫を介護するため,子どもの保育時間を延長せざるを得なかったことによる損害

・ 通常のベッドでは寝起きが大変であり,介護用ベッドをリースしなければならなかったこと

・ 会社に車で通勤するようになった後も,運転補助装置が必要であったこと

などがわかり,依頼人の,このようなハンディは今も続いており,また,家族にも負担をかけているということをわかってほしいという気持ちを受け,損害として算定し,請求しました。

その他,もし事故に遭わず,健常者であれば,会社において将来的にどのような扱いになり,給与もどの程度になるのかというようなことも,会社の協力を得て,主張・立証しました。

当然のことですが,いくらお金をもらっても,もとの身体に戻すことはできません。

しかし,被害者の置かれた状況を十分理解し,可能な限り,被害者のために損害を賠償させることが,弁護士のつとめだと思っています。

被害者が重症を負ったうえ,さらに,その賠償においても,納得するような賠償がとれず,二重に傷つけられることは,なんとしても避けたいと考えています。