相続人多数の遺産相続
- 2014年11月28日
- 家族・親族間問題の事例
◆ 事件内容
依頼人の祖父の弟夫婦(子どもはいない)が,昭和59年と昭和61年に相次いで亡くなった。
他界した祖父の弟には財産(土地/以下「本件土地」という。)があり,その3/4を妻が,残りの1/4を兄弟で相続して遺産分割がなされれば,本来であれば,その時点で決着がついた。
しかし,遺産分割をせず,本件土地を,長男であるという理由から,事実上,依頼人の祖父が管理することとなった。
その後,祖父が他界したため,本件土地について,依頼人の父が管理するようになった。
さらに,父死亡後は,本件土地を依頼人が管理することとなった。
この時点で,相続人は,依頼人の他87名となってしまっていた。
依頼人は,代々,固定資産税を支払うだけでなく,祖父の弟夫婦の墓の管理も行っていた。
しかし,このままでは負担だけが大きいため,本件土地について,なんとか自分の名義にしたいと考え,司法書士に相談し,戸籍謄本を取り寄せ,全相続人を明らかにした。
そのうえで,相続人宅を一軒一軒まわり,いわゆる「ハンコ代」を支払って,87名の相続人の内,61名から,相続分の譲渡を受けることができた。
しかし,残りの相続人26名からは,協力を得られずに行き詰まり,解決を求めて当職に依頼した。
◆ 解決内容
当初,当職は,相続分の譲渡を受けた61名の相続人を除いた,26名の相続人を相手として,遺産分割調停を申し立てた。
しかし,裁判所より,相続人全員を相手にするように指示を受け,結局,相続人87名全員を相手として,遺産分割調停を行うこととなった。
なお,この多数の相続人の中には所在不明の方もおり,その方については,裁判所に,別に「不在者の財産管理人」(弁護士)を選任してもらい,その弁護士を相手とすることとなった。
裁判所も,独自に「調査票」を送るなどして,相続人全員に回答を求めた。
その結果,前記61名の相続人は相続分の譲渡を認め,さらに,現在相続人になっている方も,その親が相続分を譲渡していたこと,残りの相続人の内3名が相続を放棄するなどし,最終的に,申立人(当方の依頼人)と8名の相続人が残った。
この段階で,財産管理人となった弁護士以外の方は調停に出頭しないため,審判手続きに移行した。
その後,最終的に,
① 本件の遺産は,申立人(当方の依頼人)の単独取得とする。
② 申立人は,8名の相続人に,それぞれ代償金を支払え。
という審判の決定がなされた。
代償金の金額は,各相続人の持分に応じて決定され,合計約27万円となった。
しかし,この代償金について,5名の相続人は受け取ってくれたが,残りの3名は受け取ってくれなかった。
そのため当方は,とりあえずお金を持参して受け取ってくれるようお願いしたが,それでも受け取ってもらえなかったため,法務局で「供託」の手続きを行った。
このような手続きが全て終了して,本件土地を依頼人の名義にすることができた。
◆ 弁護士のコメント
この事件を解決して私が一番感じたことは,相続人が多数(87名)いる中でも,依頼人本人,司法書士及び弁護士の協力により,根気強く処理していけば,なんとか解決できるものだということでした。
しかし,さらに時が経ち,相続人が,150名,200名となってしまった場合,解決できるかどうかは,自信がありません。
この事件は,平成24年7月に調停を申し立て,最終的に,平成25年11月に審判の決定がなされています。
解決までに,この間,1年4ヶ月を要しましたが,本件土地について,なんとか依頼人の単独所有が認められ,依頼人は大いに喜んで下さいました。
ところで,長期間管理していた場合,10年(善意無過失の場合)あるいは20年(悪意有過失の場合)を経過すれば,時効取得することができるのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし,相続人の1人が取得する場合,裁判所は,長らく占有管理していても,単独に相続したものと信じて疑わず,また,そのような客観的状況があったという場合以外は,時効の要件である「所有の意思」を認めないと思われます。